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「これが天竜峡か!」
切り立つ崖を見下ろして、カネトは思わず息を飲み込みました。
「どうやって資材を運ぶんだ!歩けそうな道なんてどこにもない!いったいどうやって測量したらいいんだ」
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その時です。はるか真下の天竜川を、一艘の川船が、矢のようなはやさでくだっていきました。
「そうだ!天竜の人たちがいるじゃないか!あんな激流を、たった竿一本で船を操って進む人がいるんだ。
立派にやり遂げてみせるぞ」
そう心に誓ったカネトでしたが厳しい自然にはばまれ測量は一進一退でした。
M11.天竜峡
M12.戦い
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「ワー!助けてくれ!」
雪に足を取られ、仲間が足を滑らせました。 命綱のおかげで、かろうじて岩にぶら下がっています。
真下は断崖絶壁で落ちたら命はありません。
「命綱が岩でこすれて切れそうだ!ゆっくり、ゆっくり……」
「助かった!」
こんな事だけではありません。天竜峡谷は野生の王国そのもので、 カネト達はいのししやマムシ、蜂の急襲にあったりしました。
M13.命綱
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「あっ!タヌキ!」
測量隊が仕事を終えて、宿舎に戻ると、一匹の子ダヌキが迷い込んでいました。
「タヌキだ!つかまえて!」 「よし!そっちだ!あっ!こっちだ!こっち!」
やっとみんなで捕まえた子ダヌキはポン太と名付けられました。
「かなちゃん、ポン太はうまいタヌキ汁になるよ」
「だめ!ポン太は私の大切なともだち!」
M14.タヌキ
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M15.雨 |
M16.ポン太 |
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ポン太はひとりぼっちだったかなちゃんの、良い遊び相手になりました。
けれど、雨の日が何日も続いたある日、ポン太の姿がぷっつりと見えなくなってしまいました。
ポン太はどこに行ってしまったのでしょう。
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M17.食料を求めて |
M18.今日よりも明日 |
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天竜峡に来て2年と数ヶ月、測量はついに完了しました。
これでアイヌ測量隊は古里へ帰れるのです。
M19.帰れるぞ!故郷へ
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「さあ、みんな踊ろう!」
みんな嬉しくて、輪になって踊り始めました。
アラハオー ホイヤー イヤハオー ホイヤ……
みんなの顔が輝いていました。
M20.喜びの踊り
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そこへ、工事担当の責任者、木本さんがやってきました。
「カネトさん、お願いがあります。」
「なんでしょう」
「測量は終わりましたが、引き続き線路工事の現場監督を引き受けてくれませんか?
天竜峡〜門島間8.3キロメートルの工事はとても難しく、危険な工事です。
けれど、カネトさんならきっとやれる。」
「……分かりました。引き受けましょう。
頼まれた以上、必ずやり遂げて見せます。」
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「だが、現場監督は大勢の人夫たちを指揮しなければならない。
アイヌの私に人夫達が素直に従ってくれるだろうか……」
M21.工事現場
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ガー!ダッダッダッダッダッー
削岩機の音が山にけたたましくこだまします。
台風で天竜川の水があふれ、土台ごと線路が流されてしまうこともありました。
M22.カネトの夢が…
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「このままでやり遂げることが出来るだろうか」
カネトは焦り、人夫達もいらだっていました。
「水だぁ!トンネルから水が出たぞ!」
トンネルの天井から水が出て、手がつけられないほどです。
M23.後悔
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「ちきしょう!こんな工事やってられねえ!
アイヌ野郎にこき使われるのはもうまっぴらだ!」
不意に、荒くれ男が丸太でカネトに殴りかかりました。
「どうせ壁をコンクリートでまくんだ!こいつも一緒に埋めてしまえ!」
カネトは男達に、穴の中に放り込まれ、土砂で埋められてゆきます。
土砂をかけるスコップの音だけがガチャガチャと響きます。
M24.襲われる
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「聞いてくれ!俺は、北海道にいるときも、ここに来てからも、この仕事に誇りを持って生きてきた。
人間は姿、形でいきるのではない!おまえ達の夢や希望や、人間の誇りはどこにあるんだ!
俺をアイヌとさげすむおまえ達は、何をしてきたんだ!
アイヌを殺すことが、おまえ達の誇りだというなら、さあ早く、コンクリートをこの穴にぶち込むがいい!」
M25.アイヌの誇り
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「カネトさん!大丈夫か!」
カネトの動じない姿に、荒くれ男達の手が止まったその時、工事責任者の木本さんが飛び込んできました。
カネトが穴から助け出されると、みんなから歓声がわきおこりました。
この事件で、ただひたすら自分の信念を語り続けたカネトに、荒くれ男達の態度もすっかり変わり、みんなで力を合わせて工事を進めていきました。
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こうして、工事をはじめて3年後、天竜峡〜門島間は見事に開通し、その5年後、飯田線は全線開通しました。
今も飯田線は、地域の足となり、谷あいをぬって走ります。
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M26.完成 sample:116KB
M27.エピローグ〜生命のコスモス
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